ハロー、マイファーストレディ!

「もったいないわね。こんなに綺麗なのに。」

メイクが仕上がり、瞳は手鏡を私の方へと向けた。
そこには、あくまで自然な仕上がりだが、ずいぶんと華やかな印象の私がいた。
流行のヌーディーピンクのリップに、ゴールドのアイシャドウ。
しっかりとマスカラが塗られた睫毛と、控えめに乗せられたチーク。

「本当は、もっと華やかにしたいんだけどね。真依子は元がいいから、あんまりやると目立ちすぎる。」

瞳はメイク道具を片づけながら、名残惜しそうに私の顔を眺めるが、これでも十分すぎるくらいで。
すでに、普段の私とはまるで別人だ。

「ありがとう。せっかくだから、このままショッピングでもする?」

私は、つい浮かれた声で瞳を誘った。
恋愛はしないと決めているが、おしゃれは大好きだ。
本音を言えば、面倒さえなければ、毎日可愛いメイクだってしたいのだ。
それが叶わない私にとって、ショッピングは唯一の趣味で。
そして、それなりにセンスもある方だと思う。


「真依子。」

浮かれた私を、瞳の冷静な声が引き戻す。まだ話は終わっていないと言わんばかりだ。

「逃げてないで、ちゃんと向き合いな。政界のプリンスって言ったって、普通の男の人だよ。ちゃんと断るならまだしも、約束すっぽかして逃げるなんて人として最低。」
「約束だって、勝手に言われただけだし。行かないって言ったもん。」
「言ったって伝わってなかったら、意味ないでしょ。変なトラブルになっても知らないよ。」
「でもさ…」

瞳のもっともな意見に、ついつい私の返事にも勢いが無くなっていく。
私が反省し始めたのを見て、彼女は満足げににっこりと笑った。

「ま、気をつけなよ。邪険にされればされるほど燃える人もいるらしいから。」
「…それはないと思うけど。」
「ま、友人としては押し切られてくれた方が嬉しいけどね。案外、真依子の本物の王子様かもよ。」
「やめてよ。あり得ないの、知ってるでしょ?」

逃げたことに関しては少しだけ反省してもいいけれど、それだけは有り得ない。

「それは、分かってるけど。でも、彼はアンタの嫌いな政治家とは違うかも。」
「政治家なんて、どうせみんな同じよ。」

私はぴしゃりと言いきった。
彼女は、また知っている。
この世で私が一番嫌いなのが、政治家だということを。

知っているはずなのに、どうしてこんなことを言うのだろう。
< 23 / 270 >

この作品をシェア

pagetop