ハロー、マイファーストレディ!
「それで?何て答えたの?」
バレたものは仕方ないと、開き直って谷崎に尋ねる。父にはここへ二度と来ないように、この男のことは他言しないようによく言い聞かせねば。
「ちょっと状況が読めなかったからさ。どうすべきか、迷ったよ。」
「さすがのあなたでも、酔っ払いの話じゃ要領を得ない訳ね。」
「初めは、俺を匿う口実で、妊娠は嘘なのかもしれないと思って。まだ俺は聞いてないって答えた。」
「さすがね。でも、父の口ぶりからそうじゃないことはすぐに分かったでしょ?」
私が妊娠しているのは、事実だ。
発覚したときこそ産むかどうか悩んだが、お腹の中でどんどん成長していく小さな命を確認して、すぐに一人で産もうと決めた。
どうせ言うなら早いほうがいいと思い、お腹も目立たぬうちにと、両親には一ヶ月前に打ち明けた。相手とは結婚出来ないとも伝えてある。それも事実だ。
「ああ、さすがに驚いたけど。」
「そういうことなの。サロンは来月いっぱいで辞める予定よ。ごめんなさいね、タイミングが悪くて。そりゃ父もあらぬ疑いを掛ける訳だ。でも……」
ちゃんと否定したんでしょ?という言葉は、谷崎の発言により遮られた。
「ちゃんと、挨拶しておいたよ。」
谷崎は、にっこりと人の良さそうな笑顔で微笑んだ。これはこの男お得意の、人を懐柔するための作り笑顔だ。
「はぁ!?」
思わず、眉間に皺を寄せて、声を上げてしまう。
「だから、言っておいた。俺が子どもの父親だって。土下座して謝ったら、許してくれたよ。事情があって、今すぐ籍を入れることは出来ないけれど、娘さんを幸せにしますって言ったら、随分安心したみたいだったよ。」
まるで、何か喜ばしいことを報告するような口調で、あり得ないことを口走る男を私は思いっきり睨み付けた。