ハロー、マイファーストレディ!
そして、その日から私はすっかりと人格が変わった谷崎に、呼び出されるままに会うようになった。

あの夜はっきりしたのは、谷崎を恋人だと思っていたのは私だけだったこと。それどころか、私のことを特段好きなわけでもないのだろう。ただただ、欲求のはけ口にしているだけだ。

それでも、口を開けば最低な発言を繰り返す、この男のことを私はどうしても嫌いにはなれなかった。
それどころか、むしろ愛していたのだ。
以前の彼にはなかった、情熱的な眼差しも、剥き出しの感情も、私にはひどく愛おしかった。

これが、彼の本当の姿なのかもしれない。

そんな考えが浮かんできて、ますます深みにはまっていく。
時折、悲しげに宙に視線を彷徨わす彼を、切なげに私を見つめる彼を、どうにかして助けたいと思った。

愛されることを知らないのなら、私が教えてあげる。
いつか彼にもこの愛がほんの少しでも伝わればいいなと思っていた。

でも、結局その思いは届くことなく、私と彼の関係は終わりを迎えた。

出会ってからちょうど半年。
情事の後のベッドの上で彼は『もう、終わりにしよう』と呟いた。

どうしてか理由をたずねた私に、彼は出会った頃の優しい微笑みを浮かべて言ったのだ。

『もう、飽きちゃった。ごめんね。』



その日から、十年。
私は一度も谷崎には会わなかった。

別れを告げられてから数週間で、予定通りに生理が来た。どうしてか涙が出た。
どうやら私は、あの男の子どもを産んであげたいとまで思っていたらしい。
それほどまでに、彼を愛しても。
私の拙い愛は、彼には届かなかったのだ。

以来、私は律儀に彼の面影を追い続けているのか。
それとも、元々男の趣味が悪いのか。
好きになるのは、見事にダメな男ばかりだった。

そして、ついには、不毛な関係の末に、めでたく妊娠してしまったのだ。

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