ハロー、マイファーストレディ!
Ⅷ、契約か求婚か 

■ キスと抱擁を証に


「お仕置きが必要だな。」

真依子の今更ながらに震える手を引いて事務所の二階へと上がる。
少し迷った末に、以前、真依子が事務所に寝泊まりしていた時に使っていた部屋に彼女を押し込んだ。

「やっ、ちょっ、待って……」

どれだけ真依子が腕を振り払おうとしたところで、俺は離すつもりはない。
強引に腕を引いてソファへと座らせれば、彼女は諦めたのか、力の抜けた顔で隣に座った俺を見上げる。

「お仕置きって?痛いのはやめてよ?」
「それは、どうかな。君次第だな。」
「酷いことしたら、DVで訴えてやるから。」
「堂々と抱擁シーンを生中継した後だぞ?みんな、痴話喧嘩としか思わないだろうな。」

そう言い返されて、先程までの出来事を思いだしたのか、真依子はすぐさま頬を染める。俺は、その姿を満足そうに眺めた。

「えっと……さっき記者会見で話したことって……」

その口ぶりから察するに、まだ会見での俺の言動を演技だと疑っているのだろう。
素の自分をカメラの前にさらけ出して、あれほど熱い抱擁を交わしたにも関わらず、まだ疑われるのかと溜息が出た。
それでも、今まであれだけマスコミをイメージ戦略に利用してきたのだから、今回も何らかの作戦だと疑われても仕方ないと自分を納得させる。

答えは、全てが真実で、俺の本心だ。
そう言ったら、君はどんな反応を見せるだろう。
迷惑がるだろうか。
契約上仕方なく結婚する相手に、恋愛感情を持たれて、困惑するだろうか。
そう思うと、肝心な一言が出ない。

会見中、俺は政界のプリンスの仮面を纏うことなく、不機嫌さ全開の素顔で記者の輪の中へと入っていった。こんなことは、初めてだ。今まで、努力して守り通してきたイメージは全て台無しで、それこそ俺の政治生命に関わることは言うまでもない。
しかし、ハイヤーのカーナビ画面で見た真依子の会見は、俺に我を忘れさせるには十分だった。

彼女が出した答えは、まさかの婚約破棄。
自分が責任を背負うことで、事態の収拾を図ろうと考えたのだろう。
会見自体は、大川の提案だったとしても、話す内容は真依子が決めたのだろう。会場に踏みこんだ時に、血相を変えて止めに入ろうとしている大川が見えた。
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