ハロー、マイファーストレディ!
「辛抱強いねぇ、征太郎クンは。俺ならとっくに仕事放り投げて、ベッドに押し倒してるよ?」
一ヶ月ぶりに秘書に復帰した透は、気怠そうにネクタイを緩めながら、議員会館のソファに体を沈めて、おちょくるように言葉を投げかけてきた。
あの記者会見以降、騒動の余波で仕事は立て込む一方で、真依子ともほとんど会えていない。
それを、どうして今日復帰したばかりの透が知っているのかといえば、答えは簡単。
……身近に情報源が居るからだ。
「お前に言われたくない。結婚するまで、子作りが待てないなんて、辛抱が足りなすぎるだろう。」
「そんなこと言ったって、デキちゃったもんは、仕方ないだろう。」
復帰の挨拶回りで、すっかりお疲れのご様子の敏腕秘書は、胸ポケットから取り出した名刺入れをテーブルの上に乱暴に投げ置く。今朝事務所を出た時には名刺でパンパンだったそれは、昼休憩の今現在、すでに薄っぺらくなっており補充が必要らしい。
面倒臭そうに傍らの鞄から補充用の名刺の入ったケースを取り出す。真新しい名刺を革製の名刺入れにおさめる、その一瞬だけ、透の目が嬉しそうに細められた。
衆議院議員 高柳征太郎
秘書 大木 透
透の視線の先にあるのは、この二十年毎日のように見慣れた名前ではない。
真っ白で四角い小さな紙には、透がようやく手に入れた家族と自由が誇らしげに輝いていた。
「今から心配だ。お前がちゃんとした父親になるとは思えない。」
「そう?俺としては、ダメ男コレクターの瞳ちゃんが母親になる方が心配だけど?」
「母親は、子どもを産むと誰でもしっかりするらしい。せいぜい捨てられないように努力しろよ。」