ハロー、マイファーストレディ!
一ヶ月前の収賄騒動の後、案の定、透を連れ戻そうとする谷崎家の魔の手から守るため、透には当面の間、潜伏生活を送るように言い渡した。見つかれば、透を座敷牢にでも幽閉しかねない谷崎の親族を説得するための手立てを考えていた矢先、起死回生の一手を打ったのは、透自身だった。
真依子の親友である大木瞳と結婚して、大木家に婿養子に入り、谷崎の籍を抜ける。
最初こそ難色を示した谷崎家であったが、今後一切谷崎の家とは関わりを絶ち、今まで透を養育するのに掛かった費用については、毎月透から谷崎家へ返済することで、最終的に決着した。
ここから先は谷崎家の人間には明かしていないが、瞳のお腹にはすでに子どもがいて、来年春にはこの男も父親になるらしい。
そして、二人がどうやら10年前に恋人同士であったことも、今回の一件で判明した。真依子も知らなかったらしく驚いていたが、まさに焼きぼっくいになんとやらと言うやつだ。
思い起こせば、10年くらい前、嫉妬に狂った女が何人か父の事務所へ、透を出せと押し掛けてきたことがあった。その女たちが口々に「あんな小娘のどこがいいのよ!」「この、ロリコン男」とわめき散らしていたことを思い出す。瞳があの時の“小娘”だったのかと、一人で合点した。
「ああ、もちろん仕事以上に頑張るよ。」
「当たり前だ。仕事はだだの暇つぶしなんだろう?」
「はは、そうだったな。」
とにもかくにも、こうして透は文字通り別人のように生まれ変わって、帰ってきた。
その瞳には、もう絶望の色は見えなかった。