ハロー、マイファーストレディ!

「それにしても、すごい人気だな。」

名刺入れを再び胸ポケットにしまうと、透は以前毎日していたようにタブレット端末で、ネットニュースを検索し始める。
高柳征太郎というキーワードで上位にピックアップされるのは、ほとんどがあの記者会見について書かれた記事だ。

“政界のプリンスの意外な素顔と誠実な対応に支持者が急増”
“日本中が憧れた!愛する婚約者のための決意の抱擁”
“「何があっても君を離さない」高柳議員会見の一問一答”

俺がカメラの前で見せた不機嫌極まりない態度は、どういう訳か世間に好意的に受け止められたらしい。ニュースのコメント欄を開いてみれば、頭に花でも咲いているのかと疑いたくなる言葉が並ぶ。

“婚約者の前だけで見せる素顔って感じが素敵だった!”
“私もあんな風に必死に引き留められたい。必死なプリンス、かわいかった~。”
“二人の絆に感動!こんなに、お似合いで素敵なカップル他にいないと思う。”

あんなにも、バカを連呼したのに不思議なものだと思う。思わず眉間に皺を寄せれば、透が面白がって話し掛ける。

「これからも、たまには素の高柳征太郎で演説とかすれば?」
「する訳ないだろう。最近どこへ行ってもからかわれるんだ。いい加減、忘れてくれ。」
「そりゃ、難しいだろ。皆、政界のプリンスの純愛に、心打たれたんだよ。素直に喜んどけ。」
「他人事だと思って…」
「他人事じゃない。俺も、政界のプリンスの純愛に感化された一人だからな。中学生みたいに恋に悩んでるお前を見てたら、とうの昔に捨ててきた気持ちをすっかり思い出した。結婚までしたんだぞ。責任取れよ。」
「知るか、そんな責任。」
「いや、高柳征太郎には責任がある。今回の件で分かったのは、どんなに酷い態度でも、お前には人を引きつける魅力があるってことだよ。その力を、せいぜい世のため人のために使うんだな。」

褒められているのかよく分からない言葉に、曖昧に微笑めば、透は再びタブレットに視線を落としながら呟いた。

「変に繕ったりしなくても、そのままの高柳征太郎で、十分ってことだ。それが、持って生まれた素質なのかもな。」
「いや、俺の日々の努力の賜だろ。」

速攻で反論した俺の言葉に、透は小さく笑い声を上げて、「両方ってことにしといてやる」と頷いた。

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