ハロー、マイファーストレディ!
「なるほど、心配だからと迎えに行って、宿舎へ連れ込む訳だ。征太郎クンも正常な考えのオトコノコで、よかったよ。」
「バカ言え。宿舎に連れ込む訳ないだろう。家族以外が住むのは規則違反だ。」
「婚約者なんて家族同然だろ。しかも、今や国民のほとんどが、二人が近いうちに結婚することを知ってる。」
「それでも、規則は規則だ。」
ピシャリと言い切った俺に、透は微塵も怯むことなく、興味津々と言った様子でさらに尋ねてくる。
「じゃあ、一体どこに連れ込むんだ?」
「連れ込むわけじゃない、強制的に引っ越しさせるだけだ……高柳の本宅へ。」
「はぁ?それこそ、気が早すぎるだろう?だいたい、真依子ちゃんの仕事は?」
「私邸に婚約者を住ませても、誰の批判も浴びないからな。通勤は多少不便でも、十分に可能なはずだ。何しろ、俺も一時期毎日のように地元事務所から国会に通ってたんだから。」
そのために、この一ヶ月急ピッチで本宅のリフォームを終わらせた。といっても、前々から、大川に勧められて密かに計画していたものを、少し早めに実現しただけだ。
すでに必要な家具や生活用品は揃えてあるから、突然真依子を連れて行ってもすぐに住めるはずだ。
真依子が居るのならば、これから仕事でどうしてもという時以外は、極力本宅に帰るようにしようと自然に考えている自分に自分で驚いた。今まで極力近寄りたくなかった“我が家”が、早くも帰りたくて仕方ない場所になっている。
彼女との新生活を思い浮かべていると、透が微笑ましそうにこちらに視線を向けていた。どうやら、思わず表情が緩んでいたらしい。俺としたことが、とんだ失態だ。
そんな失態を隠すように、いつものようにすました顔で透に指示を出す。
「透、いい加減、仕事するぞ。」
「はいはい。じゃあ、ちゃっちゃと終わらせて、俺も一緒にうちの奥様を迎えに行くかな。」
この日、仕事が終わるまで。
終始、この秘書兼親友がニヤニヤしていたことは、言うまでもない。