ハロー、マイファーストレディ!
気だるい体をベッドに横たえたまま、部屋を観察していると、窓とは反対側の壁にある扉が開く。開いた扉から入ってきた僅かな蒸気と石鹸の香りから、そこがバスルームなのだと分かった。
顔だけその扉の方を向ければ、上下とも下着姿の高柳征太郎が微笑みながら、立っていた。咄嗟に、私はもう一度毛布を頭から被った。
「……何だ、その反応は?」
私が顔を隠した行為がまるで理解できないと言いたげに、征太郎はつかつかとベッドに歩み寄って、私の顔の上の毛布を剥ぎ取った。
「やだ、ちょっと!」
「何を恥ずかしがってるんだ?」
「せ、せめて、部屋着くらい着て出てきてよ!」
「全く理解できない。昨日裸で抱き合ったのに、今更何が恥ずかしいんだ?」
「やだ!もう、そんな露骨に言わないで!!」
せめてもの抵抗に手で顔を覆う。その姿が可笑しかったのか、彼はクスクスと声を上げて笑った。
「こういうの、慣れてないんだから仕方ないでしょう?」
「慣れてないのは、お互い様だ。こんな反応を見せる女、俺だって他に知らない。」
顔を隠したまま言葉で噛みつけば、征太郎はおかしそうに笑いながら返す。
そして、今度は耳元に唇を近づけて、そっと囁いた。
「残念だが、そろそろ出掛けなくてはならない。お望み通り着替えてくるから、手は外しておけ。ちゃんと顔が見たい。」
耳元に掛かる息がくすぐったい。
その感覚で、一気に昨日の情事を思いだして、ピクリと体が反応した。
征太郎はその姿を見て、またクスリと笑いを落としてから、別の扉の中へと入っていく。おそらくウォークインクローゼットだったのだろう。数分後にはその扉から、いつもの通りスーツを嫌みなくらい上品に着こなした、政界のプリンスが現れた。