ハロー、マイファーストレディ!
「今日、私、夕方から出勤なのに。」
「ああ、夜勤だったな。夕方、車で病院まで送らせる。それまで寝てろよ。」
恨めしく見つめながら呟けば、これでもかとばかりに優しい声が降ってくる。まだまだ許してやるもんかと、私は手当たり次第に我が儘を呟き続けた。
「お腹も空いてたのに。」
「すぐに朝食を運ばせる。」
「服も昨日のしかないんだけど。」
「ああ、クローゼットに新品の服がいくつか用意してある。君がよく服を買ってる店のだ。」
「昨日の下着、気に入ってないやつだった。」
「……大丈夫だ。正直な話、下着は見た覚えすらない。」
「すっごく、痛かったんだけど。」
「……それについては、悪かった以外の言葉がない。」
「ヘタクソ!」
「……否定はしない。俺も初めてではなかったというだけで、別に経験豊富という訳じゃない。」
まるで、子どもが駄々を捏ねているかのような言い種にも、申し訳なさそうに言葉を返す彼が、流石にかわいそうになってくる。多少強引に奪われた感はあるが、もちろん私だって望んでいなかった訳じゃない。明らかに慣れていない、たどたどしい手つきで触れられたことについては、むしろ喜ばしいくらいだ。
私はそろそろ許してやるかと、小声で呟く。
「……でも、すごく幸せだった。」
心の中にいまだに残るこの充足感を一言で表現するとしたら、それは「幸せ」なのだろう。偽りのない本心だが、言葉にした瞬間に恥ずかしさのあまり、再び毛布を被る羽目になる。それも、すぐに征太郎に剥ぎ取られ、抵抗する間もなくキスで唇を塞がれた。
征太郎は何度か優しく啄むようにキスを繰り返してから、私の肩に顔をうずめて「なんで今日は夜勤なんだ」と切なげに呟き、最後に溜息をひとつついて名残惜しそうに離れていった。
「いってらっしゃい」と声を掛ければ、「行ってくる」と軽く手を挙げて応える。
この憎らしくも愛おしい背中を毎朝見送れるのなら、引っ越すのも悪くないなと初めて思った。