ハロー、マイファーストレディ!
「さすが政界のプリンス!ここなら、この子連れていつでも泊まりに来られるじゃん。」
ようやく膨らみ始めたお腹を片手で支えながら、瞳はよっこらせとソファに腰を下ろした。
差し出されたお土産のミルクレープの箱を受け取って、早速、淹れてあったルイボスティーをカップに注ぐ。
「それにしても、よく引っ越したわね。」
「まあ、慣れたら意外と通勤も苦じゃないわよ。夜勤明けには車で迎えに来てもらえるし。」
車の中で座っているだけで帰れるのだから、ひょっとすると前よりも楽かも知れない。
結局、無理矢理連れてこられたあの日から、私は高柳家の本宅に住み始めた。引っ越したと言っても、元々荷物は少ない方だし、不要になった家具や家電は全て処分したため、旅行用のキャリーケース一つと段ボール数箱を運び込んだだけだった。
リフォームされた新居には、いつか話していたとおり、ほぼ瞳専用なのではないかと思われる客間も用意されていた。すでに、ダブルベッドの横にちょこんと可愛らしいベビーベッドが設置されている。
もうすぐ、私の親友は母になる。
初めて聞かされた時は、驚き過ぎて言葉が出なかった。ようやく、我に返ってからも、自分のことでもないのに不安が一気に押し寄せた。
このところ、瞳が誰かと真剣に交際していた様子はなかった。なのに妊娠したと聞けば良からぬ方向に考えてしまうのは当然だろう。瞳はダメ男を引き寄せる天才なのだ。父親は碌に責任も取れないような男に違いない。
しかし、そんな私の予想に反して、お腹の子の父親だと名乗った男は、すぐに瞳と入籍をして彼女と都内のマンションで暮らし始めた。
「びっくりした?」と悪戯が成功したように笑う谷崎さんに、私がもう一度驚き固まったことは言うまでもない。