ハロー、マイファーストレディ!
ようやく冬らしくなってきた、12月初旬の大安吉日。晴れ渡る空の下、私たちは結婚式を挙げた。
神社の参道を通る花嫁行列を、報道陣とともに大勢の地元の人々が取り囲む。
少しでも緊張をほぐすため、さり気なく隣に視線を向ければ、いつものスーツ姿より、凜々しさの引き立つ紋付袴の高柳征太郎が、周囲に余裕の微笑みを振りまいていた。
もはや、さすがと言うべきか。
あの記者会見以降、その爽やかな笑みの裏に別の顔があることはすっかり知られているというのに。この堂々たる作り笑いは、私には一生掛けてもとても真似できるものではない。
それでも、その顔が私の前だけで簡単に崩れることを知っている。
和装に合うように、メイクはいつもよりも濃い目にしっかりと。
黒の引き振袖に袖を通して、髪を文金高島田に結い上げた。
瞳が「最高傑作かも」と胸を張った姿で、式が始まる直前に征太郎と対面する。彼は一目見ただけで、すぐに驚いたように目を見開いた。
「随分と化けたな。一瞬、誰か分からなかった。」
「そう?変じゃない?」
「ああ、変なところはない。」
すぐにいつもの表情を取り戻した彼に、物足りなさを感じて、尚も問い掛ける。
「感想はそれだけ?」
「黒にしたんだな。」
「これが一番気に入って。白無垢の方が良かった?」
「いや、よく似合っている。」
淡々と言葉を返す征太郎に、ここぞとばかりににっこりと微笑みかける。ようやく、私の意図を理解したのか、彼が少しだけ身構えた。
「それだけ?」
「さっきから、何を催促してるんだ?」
呆れたように視線を泳がせて、今度は意地悪く問い掛けてくる。分かっているくせにと思いつつも、私は素直に欲しい言葉を口にした。
「綺麗だよ、とか?」
「そんなこと、言うまでも無いだろう?」
ニヤリと笑った彼は、私の耳元に顔を寄せて「唇にする訳にはいかないからな」と、耳たぶに軽く口付けを落とした。
そして、そのまま甘く囁く。
「俺が選んだ女だから、そんなことは当たり前だ。」
最後まで彼は私の望む言葉を口にしなかった。
それでも、流れるようなその行為に、今度は私の方が驚いて目を見開いた。
どうしても、この男には勝てない。
一瞬、その堂々とした表情を崩すことは出来ても、結局は皆、この強引な政界のプリンスの思いのままなのだ。