ハロー、マイファーストレディ!
「ああ、ただのサンドイッチがこんなに美味しいなんて!!」
ドレスを脱いだ途端、私を襲ったのは疲労よりも空腹だった。
披露宴の最中はとにかく笑顔を絶やさぬようにと、いつもよりエネルギーを使った上に、常に誰かに挨拶をしている状態で、私が料理を口に運ぶ時間は皆無だったのだから、仕方がない。
緊張したとはいえ、午前中に神社で挙げた結婚式の時は、まだ幾分か楽しむ余裕があったのだが、夕方からのホテルでの披露宴では、まさに息つく暇もなかった。
正直な話、あまりに慌ただしすぎて、ケーキカットすらまともな記憶がなかった。
(ただ、こちらにカメラを向ける大勢の人の中、「せんぱーい、こっち向いて下さい!!」と皆藤さんに大きな声を掛けられたことだけは何故か覚えている。)
とにかく、隣に立つ征太郎に恥をかかさぬようにと、ひたすら好印象となるように気をつけて立ち振る舞った四時間半。
ドレスを脱いで、ホテルの部屋に入った瞬間、電池が切れたようにその場に座り込んだ。
これからの人生、これがずっと続くのだ。
そう思ったら、急に自分にやり遂げられるのか、無性に不安になってきた。
それでも。
暗い顔で床に座り込んでいる私の前に、紳士的に手を差し出す、嫌みな程に余裕たっぷりな男が居た。
ほんの数秒、迷った末に私は男の手を取った。と同時に引っ張り上げられて、男の腕の中にすっぽりと収まった。
男は、耳元で甘く囁いた。
「よくやった、褒美をやる。」
まるで、どこかの殿様かと言いたくなるが、ご褒美が欲しいので素直に従う。
ソファに体を預けてだらしなく座る私の前に、数分後、ホテル特製のクラブハウスサンドイッチが運ばれてきた。
どうやら、この殿様は人の欲求を的確に汲み取る能力に長けているらしい。