ハロー、マイファーストレディ!

高柳征太郎が、念願叶って首相に就任したのは、結婚してから十二年目のことだった。

最年少首相の記録を塗り替えるのではと囁かれていた征太郎だが、収賄疑惑と真依子との結婚を機に政治家として大きく方向転換をする。
もとより、政界のプリンスなどともてはやされ抜群の人気を誇っていた彼も、このままイメージ戦略のみで上を目指すことに限界を感じ始めていた。人気抜群のファーストレディという存在を作り上げ、利用しようと考えたのも、そのためだった。
しかし、その作戦は思わぬ方へと転び、彼は長年背負ってきたイメージを捨て去って、政治家としての成熟を目指すようになる。

結果として、その方向転換は功を奏した。
この十年余り、首相を務めるに十分な実力を蓄え、生来の魅力で国民の心をがっちりと掴み続けた彼は、最年少ではないにしろ、若干47歳でこの国のトップへとの登り詰めた。


日本国
内閣総理大臣主席秘書官
大木 透

身分証を提示して、セキュリティチェックを受ける。
今回は、首脳会談のための就任後初の訪米だ。所用のために一日早く渡米した俺は、出迎えの列から少し外れた場所に控えていた。

真っ直ぐに滑走路へと降り立った機体が、大きく旋回し、所定の位置でピタリと止まると、タラップと赤絨毯が手早く設置されて、歓迎のセレモニーが始まった。

扉が開き数名のスタッフが出てきた後、ようやく姿を見せた征太郎は、背後を気遣うように見てから、タラップへと足を踏み出した。
続いて、真依子が姿を見せた瞬間に、周囲に一斉に報道カメラのシャッター音が鳴り響く。
絶大な人気を誇る日本のファーストレディには今や世界中から注目が集まっている。今回の訪米のために新調したオフホワイトのスーツを可憐に着こなした彼女は、この青空の下で誰よりも眩しく光っていた。
笑顔で手を振り、二人で少し照れたように見つめ合った後、手を繋ぎタラップを降りてくる。その姿に、また無数のカメラが向けられた。
日本の新しいファーストレディが、華々しく外交デビューを飾った瞬間だった。
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