ハロー、マイファーストレディ!

機体からが運び出される荷物の中に、見覚えのあるキャリーケースを見つける。使い込まれた小ぶりなそれは、真依子が独身時代から愛用しているもので、彼女がこのキャリーケース一つで高柳の家に嫁いできた話は、この業界では有名な話だ。

先程の瞳との電話での会話を思い出して、すぐにこちらで中身が確認できるように手配する。
滞在中に必要な荷物などはあらかじめパッキングして送ってあったが、こちらに到着後に確認したところ、晩餐会で着用する予定のアクセサリーが破損していることが判明した。慌てて日本に残っている瞳に用意するように言って、何とか間に合わせたという訳だ。

瞳は出産後に、ヘアメイクの仕事を再開した。と言っても、たまに結婚式やイベントでの出張メイクを請け負う以外は、ほぼ真依子の専属状態で、以前のように芸能関係の仕事の依頼を受けることはなくなった。
今回も訪米で両親不在中の高柳家に、息子同伴で泊まり込んでいる。高柳家には優秀な家政婦が数名いるため心配はないが、高柳家の子ども達は母の親友の瞳に懐いていた。

征太郎と真依子には、二人の子どもが居る。一人目は結婚の翌年誕生した女の子だ。ギリギリ三月の末に生まれて、四月生まれのうちの息子と同級生になり、今では何かと便利だという理由で同じ学校に通わせている。
物怖じせずに堂々と自分の意見を述べる様は征太郎の子どもの頃によく似ている。しかも、母譲りの愛らしい顔で微笑めば、周りはすっかり彼女の虜だ。
早くも政界のリトルプリンセスと呼ばれ、注目を集めている。本人もやる気十分で、七歳差で生まれた二人目も女の子のため、このまま高柳家の跡取り娘となる日も近いかも知れない。

俺の息子も、今年で12歳になる。あえて告げてはいないのに、自分の出生の秘密には薄々気が付いているようだ。察しの良さは、どうやら俺に似たらしい。俺自身は一つも実の父親と似ているところなど思い当たらないというのに、不思議なものだ。
< 267 / 270 >

この作品をシェア

pagetop