ハロー、マイファーストレディ!

「まあ、悪い気はしないだろう?日本のブランドが世界に認められたんだ。本当なら、こちらからプレゼント致しましょうかと言うべきだった。」
「長谷川には、俺自ら売り込んでやったと、恩に着せておけ。」
「相変わらずだな。少しくらいいいだろう?素直に、同級生の功績を褒めてやれよ。」
「デザインしてるのは、長谷川じゃないだろう?褒める必要などない。」

スミカ・ハセガワは俺たちの同級生である長谷川巧己が妻でデザイナーの純夏(すみか)と始めたブランドだ。駆け落ち同然で一緒になった二人が始めた小さな店が、努力を重ねた結果、今や世界に名を知られるブランドになった。同級生としては誇らしいはずだが、この男の反応は冷ややかだ。
とは言っても、征太郎も以前のように巧己を必要以上に遠ざけることはなくなった。今では、憎まれ口を叩きながらエール送り合うような関係だ。そして、毎年純夏から贈られる靴を征太郎はいつもここぞという場面で履いている。

「まあ、夫人に贈るプレゼントに必死になってる大統領なんて、人間味に溢れてて素敵じゃない。」
「そうか?仕事そっちのけで、女の機嫌を取るなんて女々しいだろう?」

真依子が他の男をフォローしたのが気に入らないのか、征太郎は尚も不満顔だ。

「どの口が言うんだよ。毎年、真依子ちゃんの誕生日の前に、慌てて俺を頼るくせに。」
「それは…真依子が欲しいものを聞いても答えないから…仕方がなく、だな……」

自分のことを棚に上げて憤慨する征太郎に、たまらず横やりを入れると、小さな声で弁明した後、今度は仕返しとばかり話題を変えて声高に抗議してくる。

「それは、そうと。訪米中は真依子とずっと別々の部屋というのはどういうことだ?」
「どういうも何も、事務方の配慮だろう?公式な訪問や会談の合間にも、仕事は山ほどあるんだ。頻繁に人の出入りもあるし、部屋でひっきりなしに打ち合わせをされたんじゃ、真依子ちゃんも休まらないだろう。」
「それなら、俺の部屋を仕事用の部屋にすればいいだろう?とにかく、休むときは真依子の部屋に行く。寝る部屋を別にするなんて、不仲だと言っているようなものだ。」
「いや、それについては日本中で誰一人として疑っていないと思うぞ。」

高柳征太郎が愛妻家であることは、十二年前の記者会見以来、政治通でなくとも皆が知っている事実だ。その証拠に、毎年発表される理想の夫婦ランキングでは有名芸能人夫婦を差し置いて、いつも上位にランクインしている。

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