ハロー、マイファーストレディ!
その翌日、俺は再び森ノ宮記念病院に出向いて、内海真依子を呼び出した。
栄養剤代わりの点滴を受けるついでに、彼女を食事に誘うためだ。
透の調査により、俺の計画に内海真依子はなかなか適した人物であることが分かった。
その後、大川と透と三人で内海真依子に接近する方法を話し合って、まずはごく普通に親密な関係になる方がいいという結論になったのだ。
この形を推したのは、言うまでもなく大川で、あくまで俺には「まっとうな恋愛」をして欲しいのだと言う。
しかし、その作戦は恋愛しない女の前に、あっけなく失敗に終わる。
一方的な誘いを掛けて、病院の裏口で待ちかまえていた俺たちの前に、内海真依子は姿を現さなかった。
前に救急外来で顔を会わせた、真依子の後輩看護師の姿を見つけ、透に探りを入れさせたところ、どうやら急に夜勤を代わったらしい。
あくまでも俺のことを避けるつもりなのだろう。
しかし、それも全ては想定内だ。
透は、すぐに次の作戦に出る。
車を走らせて向かった先は、青山にある美容院。
透に聞けば、都内でも有名な店だという。
すでに、閉店の時間だが店内はまだ数カ所明かりが灯っていた。
透が携帯で電話を掛けると、中から小柄な若い女が一人出てきて、車へと近寄ってくる。
透は運転席の窓を下げて、女と話し始めた。
「やっぱり、真依子には逃げられた?」
「ああ、急にシフトを変更したらしい。」
「なるほどね。あの子が思いつきそうな事だわ。」
「前に話した通り、少し力を貸して欲しい。話が出来る場所に移動するから、助手席に乗って。」
どうやら、徹は彼女とは初対面ではないらしい。
あらかじめこうなることを予測して接近しておいたのか。
彼女を乗せて行きつけのダイニングバーの個室に行くつもりが、彼女の一言により予定が狂う。
「私は見た目通り軽い女だけど、知り合いと呼べない相手の車には乗らないの。」
彼女はにこりと笑うと、運転席の窓から後部座席に座る俺へと視線を向けてきた。
「お知り合いになるために、まずはお話を聞かせていただけるかしら、…高柳先生?」
どうやら、彼女の親友も一筋縄ではいかないらしい。
大木瞳は、明かりがまだらに灯る店を指さして「うちにも、VIP用の個室があるのよ」と笑った。