ハロー、マイファーストレディ!

さらに集中すること三十分。
一刻も早く政務官室へと戻りたい俺は、まだなくなる気配のない点滴の輸液を見上げて、わずかな疑念を抱く。

この点滴、そもそも必要なのか?

折しも、手にしているのは、この国の増加し続ける医療費についての資料だった。

明日委員会審議を迎えるのは、その医療費を削減するための法案。
国民の診療記録を一元管理し、全国の医療機関で共有できるようにすることで、無駄な処置や薬の処方を防ぐといった趣旨のものだ。

ひょっとして、これも過剰診療じゃないか?

そんな考えに至り、眉をひそめていると、コンコンとドアがノックされた。
「はい」と返事を返せば、看護師が一人入ってきた。

「気分はいかがですか?」

極めて事務的に問いかけられたので、それが自分に投げ掛けられたものだと気づくまでに一瞬の間があった。
先ほどまで対応してくれていた、医師や看護師は仰々しいくらいに丁寧だったからか。
部屋には数台のベッドがあるが、患者は俺だけなので、すぐに気が付いて、にこやかに返事をした。

「だいぶ良くなりました。ありがとうございます。」

なるべく良い印象を持たれるように、普段から周りには丁寧な受け答えをするようにしている。
全ては、俺の最大の武器である好感度のためだ。
少しでもボロを出せば、すぐにマスコミに叩かれるから、一歩外を出た時から気が抜けない。
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