ハロー、マイファーストレディ!

翌日、打ち合わせ通りに、カフェに車で迎えに行く。
押し問答の末に車へと連れて来られた真依子を一目見て、思わず息を飲んだ。

仕事中のどこか威圧感さえ感じるような冷たい顔つきではなく、ぱっと花が咲いたように明るく、華やかな印象だ。いつもより血色もよく見える。

同じく助手席に乗り込んできた瞳の話によると、寝坊してほぼノーメイクに近い状態でやってきた真依子をカフェでメイクしたらしい。
短時間でこんなにも変わるというのだから、プロの技というのは本当にすごい。
もっとも、普段の真依子のメイクも元は瞳が男除けの為に伝授したものらしい。
確かにこの状態の真依子なら、周りの男が放っておく訳がないだろう。


「どういうつもりですか?」
「どういうもなにも、たまたま君の友人がうちの秘書と仲良くなったらしい。」
「そんな偶然あるわけないでしょ。ちょっと、瞳、どんなこと吹き込まれたのか知らないけど、友達売るなんてサイテーよ。」

真依子は、車の中で瞳に冷たい視線を送るも、瞳は大げさに肩をすくめてから、しらを切り通す。

「まあ、人聞きの悪い。私は、単にこの谷崎さんとデートのお約束をしただけよ。谷崎さんが高柳先生の秘書さんだったなんて知らなかったわ。」
「ああ、本当に素敵な偶然だね。まさか友人同士も知り合いなんて。僕たちは恋に落ちる運命なのかもしれない。」

偶然を装うには無理がある状況だが、とにかく強引に押し通すというのが、昨日考えた手筈だ。
明らかに嵌められたと分かっても、彼女は私を置いて帰ったりはしない、というのが瞳の推測で。
実際、その通りに真依子は大人しく後部座席に収まった。

「どこ行くの?」

憮然とした表情で行き先を訪ねる真依子に、予約してあるレストランの名前を告げる。
すると、その名を聞いただけで、一瞬驚き固まったかと思えば、急に慌て始めた。

「いや、ちょっと待って。」
「どうしたの?」
「そんな高級店、こんな格好で行けないから。」

顔もノーメイク同然だっただけあって、真依子は服装もとびきりカジュアルだった。
Tシャツ素材のワンピースに麻の混じったシャツをはおり、足下はヒールの無いカジュアルなサンダルだ。
確かに、レストランの入口で止められるかもしれない。
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