ハロー、マイファーストレディ!
「透、食事の時間にはまだ早いだろう?銀座に寄ろう。買い物をするぞ。」
俺は、たった今考えついたかのように告げた。
もちろん彼女がこんな服装で現れることも想定済みだから、立ち寄る予定の店には先に連絡を入れてある。
「ちょっと待って。寄らなくていいから。」
「遠慮するな。服くらいプレゼントしてやる。」
「いやいや、いらないから。わかった、一度帰って着替えてくるから、ここで降ろして。」
「真依子、さっきショッピングしたいって言ってたから、ちょうどいいじゃない。」
抵抗する真依子を瞳と宥めつつ、店へと入る。
通されたのは店の二階のカフェスペースのソファー。どうやら、得意客だけが利用できるらしいそこには、他にも何組か客がいたが、いわゆるセレブと呼ばれるような女性客ばかりだった。
おそらく俺の存在に気が付かれているだろうが、あまりじろじろと見られることはなかった。
念のため、目が合えばいつもの仕事用の笑顔で微笑んで会釈を返す。
そのたび、頬を赤く染めてほほえみ返されるものの、近づいてきたり話しかけてきたりする者はなかった。
「すごい。これが、噂のカフェね。常連でも、なかなか入れないって有名なのよ。」
「なるほど、お金持ちの奥様やご令嬢ばかりね。その嘘くさい笑顔振りまくには、絶好の場所だわ。」
少しだけテンションのあがった瞳に対して、真依子は相変わらず冷めた様子で悪態を付く。
「俺は愛想振りまくために来たんじゃない。早く、下に行って服を選んでこいよ。」
「こんな高いお店で買えないわよ。看護師の給料いくらだと思ってるのよ。」
「プレゼントすると言ってるだろう。心配するな。」
「あなたにプレゼントをもらう理由はないです。」
「早く選ばないと、試着室に連れ込んで、無理矢理着替えさせるけど。そういうのが好みか?気づかなくて悪かったな。」
「そんな訳無いでしょ。ああ、もう、分かった。選んでくるわよ。カードでボーナス払いにするから、勝手に払わないでよ。」
最後には、そう言い捨てて瞳とともに服を選び始めた。
俺は一階が見下ろせる吹き抜け部分から、その姿を覗き見る。
半ばヤケクソのようだったが、ショッピング自体は楽しいのか、普段は見られない笑顔が時折こぼれる。
瞳と相談しながら、喜々として服に合う小物を選ぶ姿に思わず目を奪われた。
そして、それは俺だけではなかったようで、いつもより明るいメイクと表情に彩られた真依子は周りの女性客の視線をかなり集めていた。