ハロー、マイファーストレディ!

試着室で全身着替えた真依子が、俺達の前にどうだと言わんばかりの表情で現れた。
襟にビジューをあしらった黒のフレンチスリーブのブラウスと、オーガンジー素材の紺のフレアスカート。
そこに、差し色の黄色のパンプスと白のクラッチバッグを合わせている。
上品で知的なイメージのハイブランドらしく、エレガントなコーディネートだ。

「はぁ~、この手の格好も似合うわね~。定番のワンピースを選ばないところが真依子よね。」

真依子と一緒に靴だけを選び、履き替えた瞳が思わず感嘆の声を上げれば、真依子は別の種類のため息を吐いた。

「だって、ワンピースなんて普段着る機会ないんだもの。これなら、何とか着回せそうだし。」

そして、やたら現実的な事を言う。
しかし、最低限のTPOは弁えているのか、この服装ならばドレスコードは大丈夫そうだ。

「じゃあ、行きますか、お嬢さん。」
「ちょっとまって、お会計を…」

俺が差し出した手を素直に握る訳もなく、元のバッグから財布を取り出そうとする。
そんな予想通りの彼女の腰を、差し出した手でそのまま引き寄せた。

「ちょっと、な、なにす…」
「いいから、とりあえず今は俺に恥をかかせるなよ。」

びくんと体を硬直させた彼女の耳元でそっと囁く。
接客を担当していた店員は、挨拶に出てきた店長とともに、すでに腰を九十度曲げて頭を下げていた。
完全なお見送りモードだ。
もちろん、支払いに関してはすでに手を回してあるため、真依子がカードを出したところで誰も受け取らないだろう。

その一言で、彼女はこれ以上抵抗するのが無駄だと感じたのか、渋々承諾したように俺の動きに合わせる。
ぴったりと体は寄り添っているが、当然のように完全に俺に体を預けてはいない。
そのまま、俺はどこかぎこちない足取りの彼女をエスコートして、店の出口へと向かったのだった。
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