ハロー、マイファーストレディ!
再び車に乗り込んで、車の中でも服の代金を払うと詰め寄る真依子を宥めつつ、向かった先は都内で五本の指に入る有名フレンチレストランだ。
一ヶ月先の予約も一杯だと言われているその店に着けば、当たり前のように個室に通される。
真依子にすっぽかされなければ、昨日は、これまた人気の高い隠れ家的な日本料理の店に行くはずだった。
予約は一杯といえど、昔売った恩や打算で積み上げられたコネクションなど、使えるものを惜しみなく使えば、人気店を押さえることなど造作ない。
渋々席についた真依子は、洋服の代金を受け取ろうとしない俺に対してよほど不服なのか、不満げな表情を浮かべている。
しかし、そんな表情でも、つい見とれてしまうくらいの、完璧な美しさ。
そして、彼女の美しさ以上に計画は完璧だ。
彼女をおびき寄せ、連れ去り、着飾らせる。
ここまで、一寸の狂いもないほど予定通りだ。
やがて、コース料理が始まり、主に瞳と透が会話を弾ませて、俺が時々口を挟む。
真依子は、お構いなしに、ただ黙々と食事をしていた。
料理自体は気に入ったようで、もぐもぐとおいしそうに平らげていく。
それと同時に、どこか満足げにワイングラスを幾度となく傾ける。
瞳から、彼女がワイン好きだという情報を得ていたため、店をフレンチにして、ここぞとばかりに評判のワインを料理に合わせていくつか注文した。
どうやら、彼女はとても頑なで融通の利かない性格らしいが、意外と自分の欲求には素直であることが分かる。
好きなショッピングをすれば、つい笑顔がこぼれるし。
おいしい料理と酒を前にすれば、つい飲み過ぎたりもすると言う訳だ。
食事を終えて店を出る頃には、真依子は明らかに酔っていた。
とは言っても、元々酒には強いらしく、顔色には変化がないし、相変わらず上機嫌に笑うこともない。
ただ時折、足下がふらつく程度だ。
それでも、俺はその変化を見逃さず、真依子以外の二人に目配せをした。