ハロー、マイファーストレディ!
差し出した俺の手を前に、急に我に返ったように眉間に皺を寄せる彼女に、再び俺は囁いた。
「みっともなく転びたくなかったら、手を出せよ。まあ、手が嫌なら、無理矢理でも肩か腰を支えるしかないが。」
笑顔の仮面のまま、そう言って意地悪く笑えば、彼女はおずおずと手を差し出してきた。
酔っている自覚はあるのだろう。
「車までで、いいから。」
「もちろん。さあ、行こう。」
相変わらず不服そうな表情を浮かべながらも、俺の厚意を受けるべく差し出された、その手をしっかりと握った。
恋人つなぎなんて色気のある繋ぎ方じゃない。
だが、今、重要なのはそんな細かな点ではなくて。
手をつないでいる、という事実と。
手がつなげるほど、お互いの体が近い距離にいること。
そして、その二つにより。
二人がまるで親密な関係であるかのように“見える”ことだ。
プリウスが停車している場所から、やや後方に白いワンボックスカーが停車しているのを横目に確認する。
そして、その窓が、かすかに何度か光ったことに、まるで気が付いていないように振る舞う。
全て計画通りに事が運んだことに密かに安堵しながら、彼女の手を引いて車へと戻った。
「ありがとう…」
不本意ながらも、少しだけ照れたように、真依子は小さな声で礼を言った。
その瞬間、俺の心がかすかに罪悪感で揺れる。
それにも、気が付かれぬよう、俺はふっと微笑み返した。
悪いな。
俺は、狙ったものは絶対に逃さない主義なんだ。