ハロー、マイファーストレディ!

師長に院長室へと連れて行かれると、テーブルの上には先ほどと同じ週刊誌が置かれていた。

その記事に目を落とせば、病院の周囲にマスコミがたくさん居た理由や、私が院内でやたら視線を集めていた訳が分かった。
記事には、名前こそ伏せられているものの、私の職業と年齢が書かれていて。
写真も目の部分は隠されているが、日常的に私と接している人物なら、はっきり私だと分かるくらいには鮮明だ。

“お相手は、看護師のMさん(27)で、女優の梅嶋奈々子をクールにした感じの美人”
“Mさんが勤務するのは、各界著名人がかかりつけにしていることで有名な都内港区にある病院”

これだけの情報でもうちの病院を割り出すことは容易い。
ただ、幸いだったのは、メイクによりまるで目立たないよう武装した私に、誰も気が付かなかったことだった。
華やかで知的なイメージで、女性からの絶大な支持を誇る梅嶋奈々子を思い浮かべながら探していたとしたら、当然の結果だろう。

そして、記事の内容は半分くらいが本当のことで、半分くらいが全く身に覚えのないことだった。
この手の噂を、話半分に聞けというのは、やはり正しいらしい。

“知り合ったのは、Mさんの勤務先に過労で倒れた高柳氏が運ばれたことがきっかけ”

これに関しては、紛れもない事実だが。

“高柳氏の方から熱心にアプローチして、最近交際に発展したそうです”

などという関係者の言葉は、一体どこからでっち上げたのか聞きたくなる。
確かにアプローチとも言えなくはないが、あれは単なる嫌がらせに近い。

“すでに、お互いの友人知人にも紹介しており、結婚も秒読みかと噂されています”

これに至っては真っ赤な嘘である。
だが、内容が嘘か本当かという話は、今は必要ない。


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