ハロー、マイファーストレディ!

タクシーに乗り、自宅アパートへ帰る。
しかし、結果的に私は帰れなかった。
どこから調べたのか、アパートの周辺にはカメラを提げた記者や芸能レポーターがたくさん集まっていた。

これでは、家には帰れない。
私は帰宅を諦めて、唯一無二の親友(だと少なくとも私は思っている)に電話を掛けた。
事情を説明し、青山にある彼女の職場のサロンまでタクシーで行き、彼女の部屋の合鍵を貸してもらった。


「今日は早めに帰るから。外にあんまり出ない方がいいわ。冷蔵庫の中のものは勝手にして。」
「ありがとう。」

わずかな説明で状況を察してくれた瞳に、素早くお礼を言ってタクシーへと戻ろうとした。

「まって、真依子。」

呼び止められて振り返ると、そこにはいつになく真剣な表情の親友がいた。

「頼りないかも知れないけど、困った時には、もっと私を頼ってよ。」
「瞳、急にどうしたの?」
「ううん、いつも感じてたことよ。あんたはそうやって、何でも意地張って一人で何とかしようとするけど。たまには私の出番もくれないと、拗ねるからね。」
「何言ってるのよ。十分頼りにしてるわよ。じゃあ、行くわね。」

力なく微笑めば、瞳の顔が切なげに歪んだ。

「これで、本当によかったのよね。」

意味深に、そして自分に言い聞かせるように彼女が漏らした一言に、私は瞬時に全てを感じ取った。
ほんのふとした言葉やしぐさから、互いに理解し合えるのだから、親友とは便利なものだ。

「もしかして、瞳はこうなること知ってた?」
「だとしたら?」

瞳の視線が不安げに揺れる。でも、それは決して許しを乞うようなものではない。
私がどれほど怒ろうとも、悲しもうとも、彼女は自分のしたことに後悔はないのだろう。

「どうもしないわよ。今さら、絶交とか子どもじみたことは言うつもりないし。それが、出来ないことも、分かってる。でも、説明と弁解くらいは聞かせてもらいたいわね。」
「じゃあ、今晩ゆっくり話しましょう。」

瞳はにっこり笑ってそう言うと、ひらひらと手を振った。
その手を振り返して、今夜は久々に夜更かしすることになるかもしれない、と思う。

別にそれでも構わない。
どうせ、明日も仕事は休みだし。
瞳の店も定休日だ。
ゆっくり話をするのには、まさに打ってつけだった。


だが、しかし。
この晩、瞳と夜を明かすことはなかった。
この後、事態は急展開することになるからだ。
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