ハロー、マイファーストレディ!
「これだけは、真依子ちゃんが持っていて。」

叔父さんに会ったのは、父と母の三回忌が最後だ。
そのときに手渡されたのは、父と母が大事にしていたペアの腕時計だった。

ずっと一緒に、時を刻んでいく。

そんな意味を込めて二人が贈り合った時計は、皮肉にも同じ時刻を示したまま止まっていた。

「警察から戻ってきたんだけど、これだけは捨てられなくて。」

そう言って、やりきれない表情を浮かべる叔父の手から、父と母の唯一の遺品を受け取った。
もう、時間は元には戻らない。
だから、私も新しい自分になると決めたのだ。
だけど、私は父と母のようにはなりたくない。
汚い政治家も、無責任なマスコミも、無縁なところで生きていく。



それなのに。
どうして、インターフォンは鳴り止まないのだろう。
どうして、また、外へ出られないのだろう。
どうして、私の、平穏な日々を台無しにするのだろう。


ぐるぐると目眩がするような頭痛と共に、私はソファに座り込んだ。
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