ハロー、マイファーストレディ!
そのまま、瞳の返信を待たずに、私は眠ってしまったらしい。
むくっとソファから起き上がると、手の中にあったスマホが床にゴトリと落ちた。
メッセージの着信を知らせるランプが点滅している。
おそらく、瞳からの返信だ。
慌てて画面を見ると、「ガッテンだ!」と叫ぶ岡っ引きのスタンプのみが送られてきていた。
どうやら、親友は助けてくれる気はあるらしい。
またしても、劇画タッチの岡っ引きの絵が可笑しくて、つい笑ってしまう。
肩の力が抜けたところで、再び「ピンポーン」とインターフォンが鳴った。
またか、と警戒しながらモニターをのぞき込む。
すると、そこには画面一杯に場違いな変顔をする瞳がいた。
思わず笑うことも忘れて、夢中で玄関へと向かう。
扉を開けると、瞳が「助けにきたよー」と間抜けな声を上げて、立っていた。
「ちょっと、何突っ立ってるの?早く、入って!」
瞳を中へと促して、扉を閉めようとした時、扉の陰から、もう一人がぬっと顔を出した。
「内海さん、すぐ準備してください。時間がありません。」
容赦なくピシャリと指示を出したのは、誠実そうな仮面を被った、あの男の秘書だ。
「真依子、早く。着替えは、とりあえず私の貸すから。」
瞳は、マンションの中に入ると、着替えやら化粧品やらを手当たり次第に詰め始めた。
「下着は新品だから。あと、化粧品はサンプルでもらったやつね。バッグ以外は返さなくていいわよ。」
彼女は、先程までのおちゃらけ具合が嘘のように、てきぱきと荷造りをして、私にその荷物を差し出した。
「ちょっと、待って。泊めてくれるんじゃ…」
「ここに居たら身動き取れなくなるわよ。ホテル用意してもらったから、移動しなさい。」
瞳の説明に、谷崎が付け足す。
「私が手配しました。下に車が止めてあります。今は一時的にマスコミを別の場所に引き寄せてあるだけですから、急いでください。」
「でも、瞳は?」
一緒に行く素振りのない瞳に尋ねれば、彼女は落ち着き払った声で答えた。
「私は実家に帰るから大丈夫。本人じゃないから、鉢合わせても他人のフリ出来るし。」
「えっ、やだ、ちょっと、待ってよ。今晩、説明してくれるって言ったじゃない。」
急に心細くなって瞳に詰め寄れば、彼女は少し神妙な面持ちで私を諭した。
「ごめんね。思ってたより大騒ぎになってるみたいだから。とりあえず、避難して。話は、ま…」
瞳が「また今度」と言い終わる前に、谷崎が言葉を遮った。
「話は、今夜、高柳からさせます。だから、早く。」
その言葉に、瞳は「そうね、まずはそれがいいわ」と一人納得したようだった。
「真依子、私はいつでもあんたの味方よ。」
そして、親友はとびきりの笑顔で私を送り出したのだった。