ハロー、マイファーストレディ!
少しだけムキになって彼女が言い放った、その意外なフレーズに思わず間抜けな声を上げてしまった。
自由診療とは、いったいどういうことだ?

「中身は単なるブドウ糖とビタミン剤です。忙しくて食事もお忘れのあなたを心配して、秘書の方から頼まれたもので、全額自費でお支払いいただきます。何ら違法性はありません。」

勝ち誇ったように事の真相を告げられて、焦ったのは彼女ではなく俺だった。

「ご希望とあらば、もったいないですが点滴は途中で外せます。診察も自由ですから、すぐにお帰りいただいて結構ですよ。」

そう畳み掛けるように告げた彼女は、おそらく看護師泣かせの血管に立ち向かうべく病棟へと急ぐのだろう。
あっけに取られる俺に、失礼しますと
声を掛けて、彼女はそそくさと処置室を出ていった。

慌てて谷崎を呼ぶ。
軽く睨みを利かせると、奴は「だって、また倒れられてもこまるし」と肩をすくめていた。
そして、10分後に戻ってきた彼女に、すぐに点滴は中止して帰ると告げる。

てきぱきと準備をしてから、針を抜く様子を見て、この女、ナースとしては優秀なのだろうと感じる。
無駄のない動きに、的確な受け答え。
何より、看護師泣かせの血管をどうやら、10分でクリアしてきたようだし。
とにかく手際が格段にいい。

「いいですか?必ずコンビニでおにぎりと栄養ドリンクを買って下さい。」
「…随分と親切だな。」
「また、舞い戻って来られても迷惑なので。」
「そんなこと言ってもいいのか。」
「事実ですから。次があるなら、大人しく特別室に入って下さい。処置室を個室のように使われると困ります。」

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