ハロー、マイファーストレディ!
「本当に朝帰りするとは思わなかったよ。」
議員会館の部屋を開けると、ソファで横になっていた透が目を覚ました。
おそらく、あの後仕事をしに来て、帰るのが面倒くさくなったのだろう。
「うまく行ったのか?」
「ああ。全ては計画通りだ。」
皺だらけのシャツのまま、起きあがった透に、俺は報告する。そして、当然のようにからかわれた。
「で、早速、朝までお楽しみとは、征太郎も健全な男子だったんだな。安心したよ。」
「別に、そういうわけじゃない。」
「彼女、どうだった?」
「そんなこと、知ってどうするんだ?」
「そんなによかった?なら、俺も一回ぐらいはお手あわせ願おうかな。」
「馬鹿なこと言うな。」
「…フッ、冗談だよ。ムキになるなよ。さすがに友人の女に手は出さない。」
「当たり前だ。」
「秘書としても、計画が台無しになるようなヘマは踏まないさ。」
軽く笑いながら透は秘書室へと一度消え、タオルと着替えのシャツを持って出てきた。
今から、シャワーを浴びに行くのだろう。
「じゃあ、俺は身だしなみを整えてから、未来のファーストレディーを迎えに行くとするかな。当分は騒ぎになるだろうから、事務所に連れて行くよ。東京よりは人目がないから、その方がいいだろ。」
予想通り、シャワーブースへと向かおうとする、透を呼び止める。
「まて、透。少しゆっくり寝かせてやれ。ホテルにはルームサービスとチェックアウトの延長を頼んでおいた。」
「おいおい、昨日、どんだけやりまくったんだよ。」
何かを勘違いして、下世話な笑みを浮かべた透に、呆れながらも否定しておく。
別に、昨日のことを子細に報告する義務などないのだが、これ以上、その含み笑いを向けられるのは、ごめんだ。
「だから、何もしてない。」
「はあ?何にもって、何もか?」
「キスしたら、震えだしたから途中で止めた…初めて、だったらしい。」
「マジか?彼女、本当に掘り出し物だったんだな。じゃあ、何で朝帰りなんだよ。」
驚きとともに当然のように浮かんだ疑問を口にしながら、秘書兼友人はニヤニヤとこちらを見ている。
いい加減、その顔はやめてほしい。
「寝てただけだ。少しのつもりで、彼女の隣で横になったら、寝過ごした。」
素直に報告すれば、それこそ透は驚きの表情を浮かべた。
「珍しいな。お前が寝過ごすなんて。そんなに、ぐっすり眠れたのか?」
「ああ、気づいたら朝だった。いいから、早くシャワー行けよ。 」
「ハイハイ。」
さらに問いつめてくる透がいい加減うっとおしくなり、背中を押して追い払う。
「彼女は、本当に大アタリかもしれないな。」
去り際に透が漏らした言葉は、あえて聞こえないふりをした。