ハロー、マイファーストレディ!
Ⅳ、嘘か誠か

■ 改めて、彼女に出会う

母親を最後に見たのは、別れの朝だった。
その日、五歳の俺を置いて、母は家を出ていった。
父の度重なる浮気に耐えかねて、父と離婚した母は、跡継ぎである俺を連れていくことも出来ず、一人でひっそりと実家へと戻ったという。

父に、たった一つだけ条件を突きつけて。

捨てられたなんて、恨みがましく思ったことはない。
ただ、人並みに母を恋しいと思う感情はあった。
だから、ずっと胸にあったのは、五歳の俺に、母が最後に告げた言葉だ。

「征太郎は、一番になりなさい。」

その日まで毎日のように泣いていた母が、そう告げた時だけは笑顔だったのを覚えている。

一番に、なりたい。
強く、強くそう思った。
そうすれば、きっと母は笑ってくれる。

その日から、「一番になること」だけが俺の人生の目標になったのだ。

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