恋愛優遇は穏便に
「さて、宝石店へ行かなくてはいけませんね」


「……そうですね」


崩れるように横になって目が覚めた頃はもう昼を過ぎていた。

さんざん互いのカラダにしがみつき、声にならない声をあげ、着き上がる感情を堪能して身もココロも心地良い疲れが残っていた。

二人とも汗を吸い取ったベッドから起き上がり、支度を済ませて宝石店へ向かう。

お店は数組のカップルがショーケースをのぞきながら、互いの顔を見つめあって、あれがいいね、これもいいねとささやきあっていた。

先週購入した店員さんが対応してくれて、すぐに指輪を持ってきてくれた。


「サイズチェックさせていただきますので、確認お願いします」


政宗さんが濃紺のベルベットの指輪のケースを受け取り、ふたを開ける。

真ん中には仕上がった指輪が輝いていた。

政宗さんができあがった指輪を取り出してくれた。


「手、出してください」


右手を差し出すと、政宗さんが指輪を持つ。

内側には赤い線がちらりと見える。

薬指に指輪をはめてくれた。


「お似合いですね」


女性の店員さんが営業スマイルと甲高い声で祝福してくれた。


「これにして正解でしたね。むつみさん」


「はい。この指輪にしてよかった。大切にします」


右薬指に光る指輪が私と政宗さんをつないでくれる。

次のステップに進む計画のひとつであると信じて。
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