恋愛優遇は穏便に
木曜日の昼休みに珍しく北野さんが戻ってきた。

昼、高清水さんが出かける代わりに北野さんがお昼をとりにきた。

手にはコンビニの袋を携えていた。

のんびりお弁当を広げ、食べていると、北野さんが菓子パンをかじりながら話しかけてきた。


「五十嵐くん、忙しそうね」


「そうみたいですね」


「年末まで仕事のスケジュールがいっぱいみたい」


「……そうですか」


ただでさえ通常の営業の仕事があるのに、年末に向けて研修があったりと多忙だ。

横でみているのに、心配するけれど、つらいとか大変とか口に出していないからいいのかな、と思ってはいるけれど。


「あんなに頑張っている姿って初めてじゃないかな」


「えっ」


私の驚く顔をみてか、北野さんはにっこりとした表情で接してきた。


「むつみちゃんが会社に来るまで、あんながむしゃらに仕事する子じゃなかったよ」


「そうなんですか?」


「出世したい欲は変わらないんだろうけど、積極的になってるわね。まあ、みんな、ホープの五十嵐くんに期待してるんだけどね」


「北野さんだって頑張ってるじゃないですか」


すると、にこやかだった北野さんの顔が少しだけ翳り出した。


「わたし? わたしは……まあいいの」


思わず口を覆ってしまった。

もしかしたら所長になるはずだったかもしれなかったのに。

それでも北野さんは出世よりも駒形さんを選んでしまったから、しかたないのかもしれないけれど。

私が言ってこれからどうにかなることもないので、残ったお弁当を食べた。

わかってくれたのか、北野さんはペットボトルのお茶を飲み、軽く笑ってみせた。


「五十嵐くんのこと、これからも支えてあげてね」


「はい」


そういうと、北野さんは凛とした姿に戻り、営業先へと向かっていった。
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