恋愛優遇は穏便に
金曜日になり、仕事を終え、ロッカー室へ入った。

すでに次の仕事場へと気持ちが切り替える。

制服から、黒のジャケットに白の長袖シャツ、黒と白の縞模様のスカートに着替えた。

これも制服の一部みたいなものか。

ジャケットを羽織った瞬間、背筋が伸びたように思えた。

一階のロビーに降り立つと、政宗さんがこちらへ駆けてきた。

私の姿をみると、少しだけ笑顔が翳りを帯びていた。


「今日もこれから用事なんですね」


「え、ええ。また終わったら連絡しますから」


またあとで、と言おうとしたとき、政宗さんは首をかしげた。


「しかし、まだ言えない用事なんて、なんでしょうね」


「えっ」


政宗さんは何か言いたげだ。でも、私が黙っていると、


「こちらの話ですよ。気をつけていってらっしゃい」


と根負けしたのかため息まじりで答えた。


「あ、はい。いってきます」


政宗さんはエレベーターホールへ消え、私はビルの外へ出た。

すれ違いざまみた政宗さんは、若干、冷ややかな目つきだったのは気のせいだろうか。

きっと私の気のせいだと思い込み、駅近くの高層ビルまで早足で向かった。
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