恋愛優遇は穏便に
エレベーターに乗ったとき、食事会のことを思い返してしまった。

正直、気が重い。政義さんに対してどういう顔をして接していいか、よくわからなかった。

でも、契約しているからには仕事を遂行しなくてはいけない。

遊びにきているわけではないのだ。

会社の階につき、エレベーターを降りる。一歩ずつ会社の扉が近づいてきた。

息を吐き、ガラスの扉、そして、中に入るための銀色の扉を開く。

政義さんは自分の席に座り、書類をみながらパソコンに入力していた。


「こ、こんばんは」


私が席に着くや否や政義さんは手をとめ、顎に手をあてて、こちらをじっと見つめていた。


「ぎこちないね」


「そ、そうですかね」


「何をそんなに意識してるんだろうね」


「意識なんて、してません」


していないはずだけど、政義さんを見るたびに、食事会のときのことを思い出してしまう。


「いつもの通りにすればいいのに」


政義さんは私の気持ちを察しているのかどうなのかわからないけれど、私をみてクスクスと笑っている。


「まあ、そこのところがかわいらしいんだけどね」


甘く響く低音の声にどきんと心を揺らしながらも、メールを立ち上げ、来ていた仕事の内容の確認を行った。
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