恋愛優遇は穏便に
エレベーターに飛び乗る。ぎゅっと胸が痛くなる。

政義さんは黙って私をみていた。

人材派遣会社へ向かい、受付の人にダンボールを渡して下の階へと戻る。

もしかしてまだ廊下にいるじゃないか、とドキドキしてエレベーターから降りたけれど、政宗さんの姿は見当たらなかった。

会社に戻り席に着くと、ようやく政義さんが声を発した。


「政宗には知らせてなかったんだ」


「折を見て話そうとしていたところでした」


「そう。じゃあ、ちょうどいいじゃん」


「そうですけど」


「そもそも秘密にしようっていう考え方が浅はかすぎるんじゃないの?」


ごもっともな意見だ。

早めに政宗さんに話しておけば、よかったのかもしれないけれど。


「困るんじゃない? むつみチャン」


「……困るもなにも」


「ボクたちの仲ももっと深くなっていきそうだね」


そういうと、政義さんがクスクスと小刻みに笑っていた。

政宗さんの悲痛な目が焼き付いて、仕事に集中できない。


「あれ、これ間違ってるね。いいよ、ボクが直しておくから」

「申し訳ありません」

提出した資料の表計算が間違っていた。

別の頭を使わない資料のホチキス止めをしたり、ファイリングをして就業時間が終わり、片付けをして、勤務表を政義さんに提出する。


「どうするの? 今夜は。ボクのところにくる?」


「結構です」


「冷たいなあ、むつみチャン。慰めてあげようと思ったのに」


サインをしてくれて、勤務表を返してくれた。


「まあ、話し合いをして、きれいさっぱり清算してから、安心してボクのところにきたらいいよ」


そういって、政義さんは白々しく鼻歌を歌いながら資料をみてパソコンと格闘していた。
< 175 / 258 >

この作品をシェア

pagetop