恋愛優遇は穏便に
連絡したくない、と思ってしまった。

でも、今夜話さなければ、もっと私と政宗さんとの関係がもつれてしまう。

1階ロビーについて政宗さんにメールを打つ。


『今夜、会えませんか?』


すると、すぐに政宗さんからメールが届いた。


『聞きたいことがあるので、むつみさんの部屋へ向かいます』


胸が苦しい。どう説明したら政宗さんが納得してくれるんだろう。

部屋につき、うろうろと部屋の中をあてもなくうろついていると、部屋のチャイムが鳴った。

玄関のドアを開けると、スーツのままの政宗さんが立っていた。

平然とした態度で接しようとしたけれど、政宗さんの顔をみた瞬間に見事に考えが崩れた。


「中へどうぞ」


「玄関でいいです」


冷たさをはらんだ声が心につきささる。


「どういうことなんですか? むつみさん」


「政宗さん……これにはいろいろと訳があって」


あんなに優しい政宗さんの顔がひきつり、目を吊り上げている。


「しかし、驚きました」


「……そうですよね」


「兄さんとは、いつから知り合っていたんですか」


「食事会の前からです」


「すでに兄と知り合いだったんですね。まさか兄さんの会社で働いていたとは思ってもみませんでした」


「これには事情が」


「何故、正直に話してくれないんですか?」


政宗さんから強めの声でわたしをなじった。


「そ、それは」


「僕に隠しておこうって思ったんですよね」


「いずれは話そうと思っていたんです。本当です」


「僕の忙しさにかこつけていたんでしょう」


「そんなことはないです。ずっと政宗さんのこと、思っていたんです」


政宗さんは私をにらみつけたままだ。

その顔は元カレの大和との件でトラブルになったときに見せたキツい顔だった。
< 176 / 258 >

この作品をシェア

pagetop