恋愛優遇は穏便に
追いかけてくるんじゃないかと思い、廊下を走り、エレベーターホールへと向かう。

自分のいる階にはまだこなかったので、何度も何度もエレベーターのボタンを押した。

ようやく到着して、誰もいないエレベーターへ飛び込むように乗り込んだ。

あんな恍惚な表情を浮かべながら私に訴える政義さんが怖かった。

そこまでして、私を奪おうとするなんて。

政宗さんが言っていた、兄は危険な人なんだということがよくわかった。

どういう意味かよくわからなくて、ただ政義さんの甘くやさしい姿に一瞬よろめいてしまいそうになった自分も悪い。

一階のロビーについてもまだ政義さんが来ているんじゃないか、とソワソワしたけれど、残業帰りのサラリーマンがちらほらいるぐらいだった。

気持ちの整理がつかないまま、自宅へ戻る。

政宗さんは今頃、何をしてるんだろう。

スマホを取り出し、政宗さんのアドレスを引っ張ってきて、メールをする。


『今回のことは本当にごめんなさい。会って謝りたいです。政宗さんに会いたい』


震える指先で送信した。

もしかしてすぐに返信してくれて、さらに電話がかかってきて、むつみさん、会いにきましたよ、ときてくれるかもしれない。

淡い期待は見事にはずれ、何時間たってもスマホの着信音は鳴らなかった。

もしかして受信ができていないんだろうかと、何度も問い合わせメールの確認をしたけれど、結局は返信はなかった。
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