恋愛優遇は穏便に
朝礼が終わると、みんな一斉に仕事の準備をはじめた。

北野さんがそのまま席につき、高清水さんも素知らぬ顔でFAXから受信された用紙を取り出している。

政宗さんは書類をカバンに詰め込み、事務室をあとにした。


「むつみちゃん、いってきたら?」


北野さんがやさしい口調で促してくれた。


「またいなくなっちゃいますよ、所長」


同調するように高清水さんも仕事をしながら話しかけてきた。


「ご、ごめんなさい。すぐ戻ります」

二人の言葉に甘えるように、事務室を出て、外へと飛び出した。

すでに廊下には政宗さんの姿がなく、急いで一階へと向かう。

エレベーターで一階について降りてエレベーターホールからロビーに向かうと、政宗さんの後ろ姿があった。


「政宗さんっ!」


政宗さんは私の声を聞いて立ち止まってくれた。

急いで政宗さんのところへ駆け寄った。

政宗さんは私を冷たい眼差しでみていた。

それでも政宗さんには変わりない。

思い切って今の気持ちを政宗さんにぶつけた。


「政宗さんに会いたかった。メールもしたんですけど……。それに私、政宗さんのこと……」


「ここは会社です。しっかりしてください」


話をぶった切るように、政宗さんはにらんだまま、私に言い放った。


「……ごめんなさい。五十嵐所長」


「それでは急いでいますから」


完全に壁をつくられた。

当たり前だ。

政宗さんにしてきた罪は重い。

ごめんなさいだなんて、言葉をいっても嘘に聞こえるんだろうな。
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