恋愛優遇は穏便に
私を見ることもなく、政宗さんは営業へと向かっていった。

苦しくなって、やるせなくなって、どうしたらいいかよくわからなくなって、ただしばらくその場に突っ立って、共通出入り口を見つめていた。

後ろから同じビルの別会社のサラリーマンやOLが首を傾げたり、私の周りを避けつつも遠目で私を見ながらエレベーターホールへと消えていく。

泣いてしまえば楽になるのかもしれないけれど、これ以上、北野さんや高清水さんに心配はかけたくはなかった。

ぐっと、奥歯をかみしめ、ゆっくりとした足取りで会社へ戻った。

事務所の扉を開けると、北野さんも高清水さんも自分の席から立った。


「どうだった? むつみちゃん」


「仲直りできましたか? 森園さん」


二人に何て説明をしていいかわからず、軽くニコっと笑って自分の席に座った。


「仲直りできてないみたいね」


「困りましたね、北野さん」


二人とも心配そうに私をみつめている。


「心配してくださってありがとうございます。もう大丈夫ですから」


「大丈夫って言われてもねえ、気になるのよねえ」


「所長も朝、会社に来たとき、珍しくドアを強く開けずに静かに入ってきて、どんよりしながら仕事の準備してましたからねえ」


「あれはバロメーターのひとつだからねえ。それにそろそろむつみちゃんが来る頃になって、急に打ち合わせしませんか、なんてわたしに言ってくるんだもん」


そういって北野さんも高清水さんも苦笑していた。
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