恋愛優遇は穏便に
いつもの恋人同士の時間を過ごし、日曜の夜、私のマンションへと戻る途中だった。
いつしなく神妙な面持ちで政宗さんが話した。


「兄と食事会をすることになりました」


「お兄さんと会うんですね。いつですか」


「月末の金曜の夜です」


どきんと胸を打った。

金曜は私の勤務日でもある。

そのあとに会うことにしたのか。


「そ、そうですか」


「彼女も連れておいでといってましたけど」


ちらりと黒ぶちメガネの奥が光ったように思えた。


「私は……」


「何か都合が悪いんでしょうか」


「いえ、別に」


「僕がいるから大丈夫ですよ」


「わ、わかりました」


「兄に伝えておきます」


そういうと、ポケットからスマホを取り出し、兄へメールをしていた。

すぐに返事がきたのか、政宗さんの手にあったスマホがぶるぶると音を立てた。


「了解。楽しみにしてるとのことです」


「……そうですか」


「あまり会わせたくない相手ですけど、僕がついてますから」


「政宗さん」


いつものやさしい笑顔で私を安心させてくれた。


「名残惜しいですけど、この辺で」


「おやすみなさい」


政宗さんとおやすみのキスをしてからわかれ、自宅のマンションへと戻る。

玄関のドアを閉めて深くため息をした。

どういう顔をして、お兄さんに会えばいいんだろう。

普通の顔できるかな。

それよりも、キスの件とか、政義さんの会社の件はいうべきだろうか。

言ったらどうなるんだろう。

ぐるぐると頭の中をかけめぐり、答えがでないまま、明日の準備をしてベッドに入ったけれどうまく眠れなかった。
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