恋愛優遇は穏便に
「いずれ知りたくなるだろうから。いつでも聞いてよ、政宗のこと。教えてあげるから」


まだ甘いオーラがあとをひいている。

きっと普通の女性だったらあの広い胸に包まれたくなるんだろう。

からめとられないように気づかないふりをしてカバンを手にする。


「……お先に失礼します」


「また来週もよろしくね」


政義さんはにこやかな顔を浮かべ、手を振ってくれた。

私は何事もなかったような顔をして会社を出た。

お兄さんはどうして私にあんなことしてくるんだろう。

私のことが好きだなんて。

たった一度の間違いのキスで好きになるものだろうか。

きっと私のこと、からかっているんだろう。

エレベーターを降り、一階のロビーにつく。

後ろ姿の背の高い茶色のスーツを発見する。

横顔をみてみると、間違いなく政宗さんだった。

どうしてこの場所にいるんだろう。

とっさに脇のエレベーターホールへ隠れた。

声をかければいいのに、どうして隠れてしまったんだろう。

それよりもさっきよりずっと胸がじんじんとする。

無意識におでこを触る。大きな手がおでこを覆っていた。

指先で毛先を触る。細く長い指先だった。
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