恋愛優遇は穏便に
何やってるんだろう、私は。

エレベーターから人が降りてきたので、ロビーに出るともうすでに政宗さんが消えていた。

どうして隠れてしまったんだろう。

別に用事だけとしかいっていないんだから、声をかければよかったのに。

やましいこと、しているわけでもないのに。

ぐるぐると自分のなかで攻めながら自分のマンションへとたどりつく。

ほっとして、そのままソファに体を傾けてた。

どうして政義さんは私に甘い顔をみせてくるんだろう。

政宗さんと付き合っているのを知っているのに。

ブルブルとカバンのなかにあるスマホが鳴った。

表示画面をみると、政宗さんだった。


「連絡がなかったので僕から電話しました。用事は済みましたか?」


「え、ええ」


「もう迎えにきてもいいんでしょうか」


「だ、大丈夫です」


電話を切り、通勤服からカーキ色のワンピースに着替えた。

しばらくたって玄関のチャイムが鳴ると、政宗さんが迎えにきてくれた。

茶色のスーツ姿にどきりとしてしまう。


「ごめんなさい。営業先でいろいろあって。ちょっと遅くなりました」


「そ、そうでしたか」


「どうかしました? 何かさっきからソワソワしているようですが」


「い、いえ。行きましょうか」


「早く会いたかったんですからね。むつみさん」


「政宗さん……」


外に出た瞬間、政宗さんのてをぎゅっと握る。

安心したのか、政宗さんはいつもより数倍やさしい顔になった。
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