恋愛優遇は穏便に
たくさん愛しあっても足りなくて、まだ欲しくなるのは、政宗さんだからかもしれない。

あっというまに時間は流れ、二人の週末の時間が終わろうとしている。

政宗さんの部屋の片付けを一緒にしていたときだった。

壁にかかるカレンダーを目にする。


「とうとう来週ですね。お兄さんと会うの」


「ええ」


「お兄さんってどんな人なんですか?」


「知りたいんですか?」


黒ぶちのメガネの奥からじろりと一瞬だけにらんだ。


「え、ええ。まあ」


「会わせたくない人といいましたが、その通りの人です」


「そうですか」


「昔から要領のいい人でしたよ。兄は」


政宗さんは片付けを終え、居間にあったソファに腰掛ける。

私も横に一緒に座った。


「欲しいものを手にいれるのには長けていた人ですね、彼は」


「欲しいもの」


「一度目をつけた獲物は必ず逃さない」


「獲物……」


「容赦しないんですよ、あの人は」


そういって、珍しく政宗さんはため息をこぼした。


「兄はむつみさんが思っている以上に危険な人物なので」


「……そうですか」


どうしよう。さすがに同じ職場の上司が政宗さんのお兄さんであると言えなくなってしまった。

それにあの間違いのキスも。


「でも安心してください。僕が必ず守りますから」


聞いてみたくなった。

ありえない質問を。


「もし……」
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