恋愛優遇は穏便に
「もし、お兄さんが私をとろうとしたら」


「な、何いってるんですかっ!」


政宗さんが声を荒げるのは無理ないな、と思った。

だから、ゆっくりとやさしい声で諭した。


「もしもの話ですよ」


「もしもですか。びっくりした。驚かせないでくださいよ、むつみさん」


政宗さんは一息ついた。


「もしも、兄がむつみさんをとろうとしたら、必ずとりかえしますよ」


「政宗さん」


「かけがえのない存在のむつみさんを兄にとられるわけがないですよね」


「ですよね。安心しました」


政宗さんは首をもたげ、腕を組む。

顔をあげると、以前どこかでみせた、いつものやさしい表情ではなく、無表情に近い顔つきに変わった。


「でももし、本当にとられたなら、僕は」


じっと私の顔をみた。むき出しになった感情は以前みたことがある。

以前、元彼の大和と対峙したときの冷たい眼差しをしていた。


「どうなるかわかりませんよ」


ぞくりと寒気がした。


「まあ、一番よくわかっているのはむつみさんですからね。僕のことを理解していると思いますから」


そういって普段のやさしい顔に戻った。
< 87 / 258 >

この作品をシェア

pagetop