恋愛優遇は穏便に
政宗さんが怖い顔をみせた。

試作室のときも、大和とあったとき、私をおとりにつかったあの日も、あの怖い顔をしていた。

普段はやさしくて誰から見てもカッコよくて頼りがいのある人なのに。

もし、お兄さんのことを話したらもっと怖い顔をするんだろうな。


「どうしましたか、むつみさん。さっきからぼんやりして」


「い、いえ」


「僕はいつだってむつみさんのことを一番に考えますから、むつみさんも僕のことをずっと想っていてください」


「もちろんです」


ほどけるようなキスと抱擁をかわす。

政宗さんが彼氏で本当によかった。

それなのに、私は政宗さんを裏切っている。

早く、話さないと。

政宗さんの唇が離れる。

まだ政宗さんの胸の中に抱かれていた。


「政宗さん」


「どうかしましたか? 改まって」


「もし、私が政宗さん以外の人とどうにかなったら、どうなります?」


「面白い冗談ですね」


政宗さんは軽く笑いとばした。

しばらくして、咳払いをして、私の目の奥を見据えるように視線を合わせた。


「そのときは発覚した時点でかなりきつめのお仕置きをします」


「……そ、そうですよね。報いを受けなきゃだめですよね」


「僕を苦しめた罰ですよ。一度ありましたから、むつみさんはよくご存知なはずです」


「ええ……」


「僕を悲しませるようなことはしないでしょうから」


「政宗さん、私……」


「さて、そんな根も葉もない話はこの辺で。むつみさんのお家に送り届けるにはまだ十分時間がありますから」


そういって容赦なく組み敷かれる。


どこかへ消えてしまいそうになりながら、必死に政宗さんの背中に、ベッドのシーツにしがみついた。
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