恋愛優遇は穏便に
朝礼が終わり、ロッカー室へと冬服の制服を置く。

もう冬が近づくんだなあ、と思いながら、ロッカー室を出ると、ちょうど政宗さんが出かけようとしていたところだった。


「むつみさんの冬服、どういう感じか楽しみですよ」


「……ま、政宗さん」


「はいはい、わたしが後ろにいるのわかってそんなこと言ってるんですかねー。先、行くよ、五十嵐くん」


ケラケラと笑いながら北野さんは私と政宗さんの横を通り過ぎる。


「では、いってきます」


「行ってらっしゃい」


ドア越しに政宗さんへ軽く手を振ると、政宗さんも手を振り返してくれた。

よし、と気合を入れ、事務室へ通ずる廊下を通り、中へ入った。

政宗さん、私の制服の冬服、期待しているんだ。

夏服とあまり大差ないのに、そこまでいってくれるなんて。


「森園さん、森園さんてば」


高清水さんが冷たい声でつぶやく。


「あ、高清水さん、ごめんなさい」


「このところ、ずっとぼんやりしてるみたいだけど」


「すみません、今やりますから」


「もうやっておきましたから、別の仕事をお願いします」


またやってしまった。

高清水さんとはだいぶわかりあえるようにはなってはいるけれど、どうしてもツンツンとしたところは変わりがなく、人をドキドキさせる。


「焦らなくて大丈夫ですから」


そういって高清水さんは少し照れた表情でパソコン画面をみていた。

私もその横顔をみて、安心して高清水さんから受けた仕事をこなした。
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