恋愛優遇は穏便に
一瞬だけど、私を見る目が冷たかったのは気のせいだろうか。

いつもと変わらない通勤服だと思うんだけれど。

首をかしげつつ、会社のビルから外に出る。

すでに17時をすぎて夕日が沈み、夜がはじまろうとしていた。

やはり、金曜ということもあり、駅へ向かう人たちから浮かれた空気がそこかしこに流れている。

浮かれた空気の飲まれそうになりながらも、高層ビルの中へ入り、『リソースワークグループ株式会社・統括マーケティング・マネージメント室』のガラス張りのドア、そして銀色のドアを開ける。


「こんばんは。むつみチャン」


政義さんはストライプの入った紺色のスーツを着ていた。


「今日もよろしくお願いします」


政義さんは涼やかに笑い、私を迎えてくれた。


「素敵な洋服だね。むつみチャン、センスがあるね」


「あ、ありがとうございます」


「今日はそれで食事会にくるの?」


「……いえ」


「そう。じゃあ、その服、乱れても大丈夫かな」


「ま、政義さんっ」


「冗談だよ、冗談。今日もいろんな部署からお願いメールが来てるんだよ。むつみチャン専用のメールアドレスができたから、そこに入れてあるよ。むつみチャン、お願いできるかな」


「はい。確認します」


政義さんからメールアドレスが記載された紙を渡される。

パソコンをつけ、メーラーを立ち上げる。自分のメールアドレスを確認し、中を開くと各部署からお願い事のメッセージがたくさん入っていた。


「一応、ボクのところにも同じものが届いているから。確認はボクがするから、完成したものは各部署とボク宛に送ってね」


「わかりました」


いつもと違う仕事に胸がときめいているのを感じている。

それをちらりとのぞいている政義さんに気付かないふりをして仕事を進めた。
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