恋愛優遇は穏便に
店に入る前に教えてもらったのだが、数あるレストランの中で、このお店を指定してきたのは政義さんだったそうだ。

地元の情報誌では本格的なフレンチを食せるお店として人気の高いところだった。

すでに22時を過ぎているけれど、金曜の夜ということもあり、会社帰りの人やカップルたちで満席に近かった。

政宗さんは店員さんに名前をつげると、奥の席へと案内された。

見慣れたスーツ姿の男の人が椅子についていた。


「兄さん」


政義さんは腕組みをして座っていた。


「遅いね」


政義さんは冷たく言い放たれる。

銀色のふちのメガネが光ったように思えた。


「待たせて悪かったね」


「いいよ。座りなよ」


私の姿をみると、政義さんは口角を軽く吊り上げた。

私は政宗さんの隣の席に座る。

ちょうど政義さんと向かいあわせだった。

視線が気になったけれど、気にしないそぶりをした。


「は、はじめまして。森園むつみといいます」


「……どうも。兄の政義です」


「どうかしたんですか、むつみさん」


「い、いえ」


私の動揺が体に現れているのだろうか。

私は黙って下を向いた。


「むつみっていうんだね。むつみちゃんて呼ばせてもらうかな」


「兄さん、慣れなれしいよ」


「いいだろう? 兄として弟の彼女を迎え受けているんだから。いいよね、むつみチャン?」


顔をあげると、政義さんがやはり口角をあげ、ニヤリと笑っている。

私は黙って頷いた。
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