恋愛優遇は穏便に
魚介のメイン料理を堪能する。

政宗さんがおいしそうに食べている姿をみて、なんだか安心する。

それでも政義さんはちらりちらりと私のほうに目がいっているのがわかった。

食事の合間にも、最近の世の中の話だったり、昔と変わらない味だなと料理を褒めたり、たわいもない話をしていたところで、政義さんが話を振った。


「政宗、仕事のほうはどうだ?」


「おかげさまで順調ですよ」


「そばにむつみチャンがいるからだろう」


「それもありますけどね」


「ボクもむつみチャンみたいな人が一人、一緒に仕事してくれたらいいのになって思うよ」


政義さんの何気ない言葉に、どきんと胸をうつ。

銀ぶちメガネの奥の目があやしく光っている。

政宗さんは不機嫌そうに添えられた野菜をフォークで突いて口に放り込んだ。


「兄さんも新しい職場はどうなの?」


「まあ慣れたかな。まだはじまったばかりの部署だから、いろいろ働きかけしているところだけどね。軌道に乗ったら本格的に活動するつもりだけど」


政義さんも政宗さんも仕事に対する向上心がとても高くてうらやましい。

それに対して私は仕事に関して失敗ばかりだ。


「どうしたの? むつみチャン、つまらなかった?」


「……いえ、仕事の話をする二人の姿が前向きでいいな、って」


「そんなことはありませんよ、むつみさん。むつみさんのおかげで僕は仕事を頑張れるんですから」


「へえ。むつみチャンが原動力ねえ。欲しいな」


欲しいな、の言葉に政宗さんはひきつった顔をしていた。


「欲しい、って兄さん」


「そういう人がいたら、生きがいになるのかなってね」


そういって、政義さんは苦笑していた。
< 99 / 258 >

この作品をシェア

pagetop