ガキ的愛情表現の結末【完】
約1カ月後、渡辺家の新しい街での、5年間限定の新生活が始まった。


「お母さん、ご飯、まだ?」


有希の食欲は相変わらずであった。


「もうちょっと待って。
 ここが片付かないと――隆史の部屋もまだみたいだし。
 早く食べたかったら、隆史の手伝い、してきてちょうだい」


内心では不満タラタラの有希であったが、そんな素振りを桂子に見せようものならどえらいことになるので、ここは従わざるを得ない。


「優しいお姉さまが手伝いにきてやったぞ~」


およそ優しいお姉さまらしくはない口調で恩着せがましく言った後、有希は手近にあったダンボールを開けた。


『5月30日。いよいよ明日は引越しだ。仲良しのみいちゃんとも5年も離れてしまうのか。まあ、でも、5年経てばまた会えるし、それに――』


有希がついつい読んでしまったのは、ジャポニカ学習帳に書かれた、隆史の「秘密日記」である。


堂々と表紙にそう書かれていたせいで、有希の興味をひいてしまったのだ。


「あ、あ――、見るな!」


隆史は真っ赤になって、有希の手から日記をひったくった。


「な~にが、『離れていても僕らの愛は永遠だ』よ。
 この、マセガキ」


有希が冷やかすと、隆史は、いつものように有希に跳びかかった。





……そして。


この日の2人の夕飯は、カップそば。


引越しそばを食べられたのは、せめてもの救いであろう。


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